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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)2925号 判決

原告 上田寅己

右訴訟代理人弁護士 上坂明

同 葛城健二

被告 伊賀隆

引受参加人(被告の債務承継人) 伊賀美代子

右両名訴訟代理人弁護士 能勢喜八郎

主文

被告は、原告に対し、別紙目録Ⅰ記載の土地につき同Ⅱ(1)及び(2)の各登記の各抹消登記手続をせよ。

引受参加人は、原告に対し、別紙目録Ⅰ記載の土地につき同Ⅱ(3)及び(4)の各登記の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は、被告及び引受参加人の連帯負担とする。

事実

≪省略≫

理由

(一)  別紙目録記載Ⅰの宅地がもと訴外富永重雄の所有であつたが、原告は、昭和三五年四月一一日、同人からこれを買い受け、その所有権を取得し、程なく右に基く所有権取得登記を了したこと、右土地については、まず被告のため、別紙目録記載Ⅱ(1)の抵当権設定登記、並びに、同Ⅱ(2)の代物弁済予約に基く所有権移転請求権保全仮登記がなされ、次いで引受参加人のため、右設定登記にかかる抵当権につき別紙目録記載Ⅱ(3)の移転登記、並びに、右仮登記にかかる所有権移転請求権につき同Ⅱ(4)の移転登記がなされたこと、登記手続上登記原因として明示されたところによれば、右抵当権設定及び代物弁済予約は、いずれも被告、富永重雄間の昭和三三年四月二一日金銭消費貸借契約に附随してなされ、その契約内容は、貸金額・三〇万円、弁済期限・同年九月三〇日、利息・年一割八分、毎月払、利息の支払を遅滞すれば未払額につき期限の利息を失う、遅延損害金・年三割六分、などというのであることは、当事者間に争がない。

(二)  しかるところ、原告は、被告と富永との間には右のような金銭消費貸借が成立していないから、これにつき締結された前示抵当権設定契約及び代物弁済予約が無効であると主張しているので、以下この点につき判断する。

≪証拠省略≫によれば、引受参加人は、弟の被告と協議の上、昭和三三年四月二一日、被告の名義をもつて瓜坂寅秀に金三〇万円又はこれから若干の利息前払金を天引した金額を交付して貸し付けたが、同人には担保とするに適当な物件のもち合わせがなかつたため、近親の富永重雄が、その所有にかかる別紙目録記載Ⅰの土地を右の担保に提供すべく予めこれに必要な書類を瓜坂に交付しておいたことから、金銭授受に直接たずさわつた引受参加人と瓜坂との間で、富永の許諾の下に、便宜上借主を瓜坂でなく富永と表示して前示抵当権設定登記及び代物弁済予約に基く所有権移転請求権保全仮登記の申請に必要な契約書等を作成した結果、登記簿上も、富永自身が債務者であるかのごとく表示されたものであることが認められる。そうすると、右各登記申請関係の書類や登記簿の記載は、借主の表示において些か事実に吻合せぬ嫌がなくはないけれども、瓜坂がみずから返済し又は返済資金を都合せぬ限り、富永において、自己の所有にかかる前記土地に対し抵当権が実行され、又は同土地が代物弁済の用に供されることを許諾したことは、疑を容れる余地のないところであるから、前示各登記の原因となつた抵当権設定契約及び代物弁済予約は、少くとも右の意味においては効力を有するものと認めなければならない。それ故、原告の前示主張は、理由がないものである。

(三)  しかるに、原告は、前示金銭消費貸借上の債務の完済により右抵当権及び代物弁済予約が効力を失つたと主張しているので、以下この点につき判断を進める。

≪証拠省略≫によれば、前示瓜坂寅秀は、前示消費貸借契約の仲介をなした中川与一郎なる人物に対し、右貸金の元利金の弁済として、昭和三三年一〇月一七日金一三五、七〇〇円、同年一二月一一日金一八、〇〇〇円、昭和三四年四月四日金一〇、〇〇〇円、昭和三五年四月二五日金二二〇、〇〇〇円を交付し、同人も、貸主たる被告の代理人であることを示してこれらを受領し、かつ、最後の弁済を受けた際にはこれをもつて元利金が完済されたことを認める旨の意思を表示したことが認められる。被告本人及び引受参加人本人の各供述中には、一部右に符合せぬ個所があるけれども、以上の認定を左右するに足りない。そして、右証人及び各本人の各供述によれば、中川は、金融業の経験もあつて、金銭貸借の事情に明るく、本件の消費貸借契約についても、当初から貸借のあつせんをなし、契約当日にも立ち会い、利息等については貸主の意向を一々確めることなく金額や支払方法を取り決め、引受参加人も、利息の支払は、中川方においてこれをなすべき旨瓜坂に指示し、現実に中川が瓜坂から受領した弁済金の若干を引受参加人方に持参したことも一再でないことが認められる。それ故、中川は、被告及び引受参加人から右弁済受領の代理権を与えられていたものと推認するを相当とし、右推認を左右するに足る証拠は存しない。

もつとも、前述のとおり、中川は、最後の弁済を受けた際これで債務が完済されたことを認める旨の意思を表示したのであるが、これは、残債務が存在していてもこれを免除した趣旨とみるべきところ、中川がこうした債務免除についてまで代理権を与えられていたかどうかはかなり疑わしい。しかしながら、前認定の諸事情によれば、本件の消費貸借に関し、被告は、姉の引受参加人を介して瓜坂に対し、引受参加人の近隣居住者である中川に弁済受領その他かなり広範囲の代理権を与えた旨表示したとみるべきであるのみならず、中川自身も、右貸借につき貸主から一切を包括委任されたかの如く行動したものと認められるから、借主の側においては、中川が債務免除についても代理権があると信じていたし、また、かく信ずるにつき正当の理由を有していたものと認むべきである。

以上の次第で、前示消費貸借上の債務は、消滅し、したがつて、これにつきなされた別紙目録Ⅰ記載の土地にかかる抵当権の設定及び代物弁済予約は、いずれもその効力を失つたものといわなければならない。

(四)  してみれば、別紙目録Ⅰ記載の土地の所有者たる原告に対し、被告は、同土地にかかる別紙目録Ⅱ(1)記載の抵当権設定登記、並びに、同Ⅱ(2)の所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をなす義務を負い、引受参加人は、同土地にかかる別紙目録Ⅱ(3)記載の抵当権移転登記、並びに、同Ⅱ(4)の所有権移転請求権移転登記の各抹消登記手続をなす義務を負うというべきであるから、これらの履行を求める原告の各請求をいずれも理由があるものとして認容することとし、なお、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 戸根住夫)

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